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「輪るピングドラム」:被害者と加害者の逃れえぬ運命の輪 [タイトル:マ行]

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高倉陽毬がプリンセス・オブ・ザ・クリスタルになるあのシーンで流れる曲や、エンディング曲などにたびたび登場するARBというバンドの初期の名曲に倣えば、Tokyo Cityが風だらけ(by ARB)なのと同じくらい、輪るピングドラムは謎だらけだ。



物語で徐々に真相が明かされる、「10年前」の事件は、オウム真理教の地下鉄サリン事件に酷似している。
だからこの物語は加害者と被害者の物語だ。
加害者の人生はどこで狂ったのか。

加害者の信じている世界の見え方は、きっと周囲の世界とはズレている。
被害者の人生は、そのズレに飲み込まれる。
他者に押し付けられたズレは、いつまでもズレとして残り自分のものにはならない。
そしてそのズレが新しい加害者を生んだりもするのだ。
被害者だけではなく、その近くにいる人たちの人生だって大きく狂っていく。
近しいものが殺されたり、健康を害されて、悲しい、悔しい、では終わらない。
人生の連なりの中で微妙にレールがずれて、徐々にそのズレが大きくなって取り返しのつかない奔流になすすべもなく流されていく。

実生活でも地下鉄サリン事件のことは忘れられない。
阪神淡路大震災が1月に起きて、そして3月にオウム真理教の地下鉄サリン事件が起こった。
その頃梶が谷の社宅に住んでいた僕は、サリン事件の起きた3月20日の朝、お客様のところへ直接向かうため表参道で千代田線に乗り換えて、サリンの播かれた2〜3本前の電車に乗った。
後で事件のことを知って、10分遅い電車で乗っていたらやばかったな、とは思ったが、そのことで恐怖は感じなかった。
だって10分「前」だったのだ。

未だ何も起こっていない霞ヶ関駅を僕の乗った電車は走り抜け、何事も無く目的地に到着し、いつものとおりに商談をした。
僕は何の被害も受けなかった。
大切なものは何一つ失わずに済んだ。

でも10分後にその電車に乗った人の中からは死者も出たし、重傷者もたくさん出た。
サリンが播かれた電車とニアミスしたのに、その体験にリアリティを持てない自分が少し苛立たしくて、僕は村上春樹の「アンダーグラウンド」を読んだ。

アンダーグラウンド (講談社文庫)

アンダーグラウンド (講談社文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1999/02/03
  • メディア: 文庫



いくら読んでも体験していない事柄のリアリティなどやってこない。
そのかわり、10分後にそこで何が起こっていたのか、その時間を体験した人はその後どうなったのかがわかってきて、そんな怖ろしい犯罪行為を安全なところから指示していた奴に激しい怒りを感じた。

「アンダーグラウンド」を読むまで事件の報道を見て思うことは、オウム真理教という宗教の滑稽さと、そんなものに頼らなければならない人間の頼りなさばかりだった。
しかし、現実に起きていたのは彼らの信じているものがどうであれ殺人行為の計画と実行だった。
そして自分のまわりの小さな世界しか見えない視野狭窄のトリガーになったのは、何か自分の中にないものを信じ、請い願うという行為だった。

後に、オウム真理教の信者や元信者に取材した「アンダーグラウンド2、約束された場所」も発刊され、これも読んでみたが、やはり「世界の見え方」がズレている、と感じるばかりだった。

約束された場所で―underground 2 (文春文庫)

約束された場所で―underground 2 (文春文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2001/07
  • メディア: 文庫



彼らは閉じた世界で生きている。
輪るピングドラムの世界もまた閉じている。
だから輪(まわ)る。

運命の輪が、バトンのように引き継がれていかないこの世界では、結局同じ所に戻ってくる運命を「乗り換える」ことでしか変更できない。
だから「生存戦略」が有効で、だからこそ、それは偶然だったと諦めることができない。
普通の世界では、偶然だったから諦めよう、という意味で「運命」という言葉を使うが、ここではそれは出来ないのだ。


ラストに死んだはずの高倉冠葉と高倉晶馬によく似た子どもが歩いている。
いかに運命の乗り換えを繰り返そうと、彼らは運命そのものから逃れることはできない。

僕ら自身のことを言えば、運命の悪戯で、加害者になることも、被害者になることもあるだろうが、すくなくとも死んだらその人生を終えることができる。

だから何かにすがって生きていく必要はきっとないのだ。
現世利益も来世のやり直しもいらない。
ただ僕らが生きるこの世界の美しさを、しっかり自分の目で見て歩いて行く。
それしかできない、ということの僥倖。
それを僕は、このアニメを通じて知ったのだ。



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