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新海誠「言の葉の庭」のセンシティブな雨のカタチ [タイトル:カ行]

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新海誠監督の作品をはじめて観たのは、2002年の「ほしのこえ」という短い作品だった。

たった一人で作ったという25分のデジタル・アニメーションに何度も見入ってしまった。


中学生の時、学校の図書館で亀井勝一郎の「青春論」を読んだ時に感じた焦燥感のようなものや、「風の谷のナウシカ」を観た時に問われた、生まれた意味みたいなものや、「耳をすませば」での、何者かになれるのかという問い。そんなものが、緻密に作りこまれた作画の端々から零れ落ちていた。


次作の「雲のむこう、約束の場所」は、その印象を純粋に拡大してみせた。

その新海節とも言える、青春期の色んな意味での「距離」に対する痛みの感覚の表現は、さらに2007年の「秒速5センチメートル」でギリギリまで研ぎ澄まされ、もう大人になっていた僕の心の表層を、まるで紙やすりで削り取るように剥き出しにしていった。

彼の作品は観る度本当に痛かった。



それからしばらく新海監督の名前を聞かなかったが、2011年に、母校北海道大学で毎年行われているクラーク映画祭というイベントで、新作「星を追う子ども」の試写と監督の講演があるというので、娘を連れて出かけた。



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4年ぶりに観た新海作品からは、あの時感じた青春の痛みは消え失せ、ただ宮崎アニメを劣化コピーしたような「今さら感」が漂っていた。

僕は大きな失望を感じて監督の講演も聞く気になれず会場を後にした。


作風が変化することは悪いことではないと思う。

しかし新海作品が提供してくれていた青春の描写は、ひたすら「萌え」のバリエーション開拓に邁進する日本アニメの中で、ジブリとは異なるアプローチで青春の痛みを王道で描く貴重な存在だった。

失われてはいけないものが、商業的効率性の中でまた失われたのだろうかと思い、それが残念だった。



しかしそれは杞憂だったようだ。

今回の「言の葉の庭」は本当に素晴らしい。

非常に短い作品だが、だからこその密度の高い作画&美術が復活している。


もともと一人で制作していた時から、作画と美術の、本物よりもリアルなリアリティが新海作品の大きな魅力だった。

「星」がファンタジー世界を舞台にしていたため、観ている者の心にある「リアル」を足がかりにすることが出来ず、作画や美術のレヴェルが落ちたわけではないのに、今までと同じように心を刺すようなリアリティを獲得できていなかったのだろう。


そういう意味で今回の「雨」の表現は本当に凄い。

あれは、心の中に降っている「雨」だ。

人々の間にそっとカーテンを引いて、いつもの日常に「秘めやかさ」をもたらす不思議な雨という存在を見事に表現している。


その秘めやかさに守られてこそ、「言の葉の庭」の彼らの葛藤が、恋がまだ恋とも言えぬ心の棘であることを、そしてその棘が柔らかく成長して、ある時心を刺し抜くものであるということを表現できるのだ。

そして僕らにとってもそれが重大事に思えた時が確かにあったと確信させてくれるのだ。


そして、ラストに流れてくる秦基博くんの歌声。

雨のことが歌われている。

「道路脇のビラと、壊れた常夜灯」という歌詞に、なんだか心の中にモヤモヤと大切な記憶とともにしまわれているはずの楽曲が浮かんでくる。

何度も何度も繰り返し聴いたはずの曲だが、なかなか記憶の中から原曲の「声」が蘇ってこない。

サビの「行かないで、行かないで」という繰り返しにやっと大江千里の声が重なって聴こえた。

1988年の「1234」収録の「Rain」という曲。



1234

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  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: エピックレコードジャパン
  • 発売日: 1988/07/21
  • メディア: CD


大学を卒業する年、札幌から東京に出ていって目眩がしそうな都会のスピードと、まとわりつくような湿度に戸惑いながら、カセットテープに録音して何度も聴いた曲。


札幌の雨はただの気象現象だけど、東京の雨は本当に不思議で、降っている時だけ自分の周りに立ち込めている都会のいろんな「濃密さ」を洗い流してくれるようで、好きだった。


そんな自分にとっての雨を、きっと映画「言の葉の庭」はずっと想起させ続けていたのだろう。

そしてエンディングに流れるこの歌に合わせて、その頃思っていたいろんなことが、すうっと心の上の方に流れだしてきた。

恥ずかしいが、涙が止まらなくて、それは映画の中の雨のようだった。


あの頃の気持ちを、まだ失くしていなかったことが嬉しくて、また泣いた。


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